森下雨村
 もりした・うそん(1890〜1965)
 新青年初代編集長として江戸川乱歩をデビューさせた日本探偵小説生みの親の一人。翻訳者としての功績も大きく、多数の海外作品を日本に紹介した。佐川春風という別名もある。



雨村の翻訳書たち


白骨の處女(新作探偵小説全集8)
新潮社 S10 再版
白骨の處女・負債
 雨村に限らずこの時代の長編はサスペンス物がほとんどなので、期待してなかったのですが、最初の口絵に現場見取り図、そしてその中央に「北龍荘」という館が描かれてるのを見て「これはひょっとして本格か?」と嬉しい裏切りにあいました。 不可能犯罪は登場しませんが、アリバイ崩し(この時代にすでにこのトリックが使われていたのか)が登場、新たな事件がおきるたびに記述者が「それまでの疑問点を箇条書き」してくれるという「らしさ」もあります。「ボートの底に残った海水に血液が含まれているかどうか調べる科学力を持っている」くせに「切断された指の指紋から被害者を特定する」という当たり前のことをしない警察を登場させたことを含め、残念なところがいくつかあるのですが、時代をかんがみ「心意気は良し」としましょう。
 同時収録の
負債は短編。
丹那殺人事件
秀文館 S23
 仙花紙本(戦後の資源不足の中で作られた粗悪な紙の本)は大好きなんですが、さすがに読めないのもあります。印刷インクは限りなくかすれ、それと逆に紙自身はどこまでも茶色く染まり、ときには虫食いもあり…… うーむ、つらかった。半分ほどまでは頑張ったのですが、目がちかちかして断念しました(電車の中で読んでいたせいもあり)。というわけで、ケレンを押さえた本格物なのですが、評価は保留。残念。
青斑猫(岩谷選書)
岩谷書店 S25
 やっぱり探偵小説の最後は「屋根の上での活動写真のような大捕物」でなきゃね。「斑猫」は毒を持った美しい甲虫。つまり犯人は女っちゅうことやね。おっとネタバレ? 分るって。
謎の暗号(少年倶楽部文庫)
講談社 S50
謎の暗号・電気水雷事件・間諜?怪盗?・知恵の戦い・消えた怪盗
 一人の少年の知恵と勇気がが世界中のスパイから日本を守り、戦局のピンチを救います。しかし、犯人と警察の格闘場面を見ながら「ゆかい、ゆかい、しかしピストルを射たんかなあ」等と、はしゃいでる子供に守られてる日本てなんだ? いわんや、やっつけられるスパイ共をや。でもしよーがないか。この少年飛んでる飛行機の窓から「ビルの8階の部屋の中でおきている事件」見つけちゃうんだもん。
青斑猫(探偵CLUB)
春陽文庫 95年
 復刻シリーズ「探偵CLUB」の1冊目。大変嬉しかった企画ですが、これを読んで「このシリーズに本格はないな」と思わされました。最初の数冊は挿絵画家の名前が記載されていない、ということも残念です。このシリーズもそろそろ見なくなってきました。買うなら今のうちです


ここより下翻訳書
ダイヤモンド、カートライト事件(世界大衆文学全集8)
フレッチャー
改造社 S3
 なんといってもこの全集は、最初のカラー口絵が嬉しいです。訳者によれば「50余編を数える氏の探偵小説の中でも指を屈せらるる名作の2編」であるらしいです。でも抄訳なんですけどね。
百魔
ロージャー・スカーレット
春秋社 S10
 函、表紙では「スカーレット」なのに、本文では「スカアレツト」になっています。現在と表記が違うほど古書としてはポイント高しです。表題作以外に『目覚まし時計』フレッチャー、『聴かず聴者』バミンガム等、7本の短編つき。函の装幀がカッコイイのに壊れて補修しているのがちょっと残念。
F・W・クロフツ
柳香書院 S10 再版 函
 装幀に松野一夫、序文・解説に江戸川乱歩、甲賀三郎、大下宇陀児、水谷 準、井上良夫という豪華な本。まさにコレクターズ・アイテムな一冊。
甲虫殺人事件
ワ゛ン・ダイン
新潮文庫 S15 23刷り 帯
 初版がS12年。たった3年で23刷りというのは、文庫ゆえの力なのでしょうか、それともワ゛ン・ダインの名前なのでしょうか。
月長石
W・W・コリンズ
雄鶏ミステリー S25
 あの月長石がたったの300ページ。つまりこれも抄訳。この時代の必殺技ですね。目次をみると、どうやら「昔話」の部分がごっそり抜け落ちている模様。まぁ、僕も中学時代に創元文庫版のその部分で挫折した覚えがあるので、正しい判断なのかも。本当に面白いのはその部分らしいんですけどね。
 裏表紙に価格が書いてないところをみると本当は函付きだったのかも。
月長石
W・W・コリンズ
雄鶏ミステリー S26
 上記本を字組みもページ数変更も全くせず、ただ装幀をソフトカバーに変えただけの本。通常「雄鶏ミステリー」というときはこっちを指します。しかし謎なのは、たった一年でなぜ変更したのかということ。上記本が(多分)函付きなのに180円、こっちのソフトカバーも180円。つまり、最初の価格設定を間違えたんじゃないかと。異種本を集めるとこういう推測も成り立つという良い見本です。
F・W・クロフツ
雄鶏ミステリー S25
 柳香書院版の訳をそのまま流用。1ページにつき、3、4行ずつ削って少しだけ短くしています。
プレード街の殺人
ジョン・ロード
雄鶏ミステリー S26
 もちろんハードロックバンド「DEEP PURPLE」のキーボーディストとは違う人です。旧訳の再録が多い雄鶏ミステリーの中で数少ない新訳。
100%アリバイ(異色探偵小説選集9)
C・ブッシュ
日本出版共同  S29
 訳者後記にこうあります。「プロットの根幹に無理があるのである。でも細部の非難はとらない。探偵小説はどうせこしらえものだからである」ここまではっきり言われれば気持ちいいです。そう、面白ければいいんです。
備考
 とりあえず背表紙に「訳・森下雨村」と表記して目についた本を選んだだけなので、他にも雨村訳を持っているのかもしれないけれど、中島河太郎の『推理小説事典』に記載されてるのでは、あとオップンハイムの『日東のプリンス』を揃えれば代表作は全部持っていることになるみたいです。