江戸川乱歩(カセットブック)
 カセット・ブックというやつです。ファンだとこんなものまで集めなきゃイケナイので大変です。88年に「(株)アイビック」というところから全10巻、97年に新潮社から4本が出ました。新潮社からはもっと出ると思ったのですが(ホームズ物はたくさん出てるし)、さすがに売れなかったのでしょうね。ホームズはシャーロッキアンがお金を使ってくれるのかも知れないし、「著作権が無い」というのが商売上大きいのかもしれませんが、天下の乱歩とはいえ、さすがに短編1本で2800円は高すぎますね。
 僕は出かける時に、「本が読みたい」と思ったら電車、「音楽が聴きたい」と思ったら車を使うのですが、このカセット・ブックのおかげで車でも読書の気分を味わうことが出来ました。
 基本的に両社の作品とも、効果音等の演出はなし。声優さんの力量一本の勝負になっています。
 カセット・ブックというのは初めて聴いたのですが、小説で読むよりも原作の文章のよしあしがよくわかる気がしました。僕は乱歩の文章の表現力は谷崎と並んで日本で1、2位だと思っているのですが、目で見るより耳で聴く方が、情報がじっくり伝わるので、より深く味わえるのですね。あらためて「乱歩は凄い」と思った次第です。
 新潮社のは大きい本屋さんでは入手できますので、興味のある人は買って下さい、と気軽に言えないのがつらいです。だって1本2800円じゃねえ(作品によっては1800円のもありますが)。



左、新潮社  右、アイビック



カセット・ブック 推理小説シリーズ「江戸川乱歩」 全10巻[STEREO]

(株)アイビック  1988年
二銭銅貨
朗読・大木民夫(65分)
 原作を知ってる人はわかると思いますが、よくこの作品を選んだものです。だって、暗号物ですよ(笑)。「ししがえぼしをかぶるとき」のような耳に残る暗号ならともかく、南無阿弥陀仏の羅列だものねぇ。さすがに参考資料と称して解読表が挟まってました。おもろないっちゅうねん。でも、この暗号はよく考えられていると思います。
二廃人
朗読・藤木 譲(46分)
 僕にとってこの声優さんは、知らない人なので、すっと作品世界に入り込めました。声も間もいいし(何を偉そうに。あくまでも、僕の感性との同調具合が、です)。下の作品には有名な人が出てくるのですが、声優さんにとって「ヒット作がある」ということは、いいことなのか、悪いことなのかわかりませんね。
赤い部屋
朗読・川久保 潔(71分)
 この人の読み方は、ちょっと早口かな、と思います。微妙なんですが、句点の読み方の違いなんでしょうね。
 下記の『疑惑』の方は全編会話文なので、気にならないのですが。
人間椅子
朗読・池田昌子(60分)
 メーテルです(笑)。色っぽくていいです。初めてこの原作を読んだときから「最後のエピソードは必要ない」と思い続けていたのですが、今回耳で聞いたら「あってもいいかな」と思い直しました。
鏡地獄
朗読・藤木 譲(53分)
 『二廃人』と同じ人なので良いです。
 みんなこの原作のことを話題にするときに「光源はどうしてたんだろう」と言いますが、乱歩はちゃんと書いています。
芋虫
朗読・池田昌子(61分)
 池田昌子はオードリ・ヘップバーンでも有名です。想像して下さい、ヘップバーンの芋虫(笑)。原作の夫人とはちょっと雰囲気が違うけれど、これはこれでいいです。エッチです。女優として演じるのが、これほど楽しい原作はないんじゃないでしょうか。
押絵と旅する男
朗読・大木民夫(68分)
 どの作品かはわからないけど、一昔前の洋画の吹き替えでやたら良く聞く声の人です。「あっ、メーテルだ」と、すぐ分かるのも困り物ですが、「えーと、何だっけ、うーん、あれじゃないし、それじゃないし」と悩みモードに入るのも困り物です。上手いんですけどね。聴いている内に気にならなくなるんですが。
火星の運河
朗読・加藤精三(32分)
 ストーリーの無い、一枚絵のような原作を、文章の力だけで読ませます。これぞ「文体」というヤツです。ちょっと余計な効果音が安っぽくしているのが残念です。「この文体に勝てる演出は無い」が実感です。このシリーズの定価はすべて1500円ですが、『赤い部屋』の半分の長さで、定価が同じはないだろう、と思います。絶版だからどうでもいいんですけどね。ただ声が、ちょっと重いかな? その理由は下記。
目羅博士の不思議な犯罪
朗読・加藤精三(61分)
 『火星の運河』と同じ人です。いい声です。いい声なんですが、星一徹の人なので、ちょっと目立ちます(笑)。やっぱり有名じゃない人の方が、すっと世界に入れます。
疑惑
朗読・川久保 潔(68分)
 全編「二人の登場人物による会話」だけで成り立った、まさにカセットブック向きの作品。最低限に押さえた、二人のキャラの演じ分けがプロの余裕を感じます。が、もう少し若い声の人が良かったんじゃないかと。だって主人公は学生、声優さんは昭和4年生まれだもの。

新潮カセット・ブック 名作ミステリー 99年8月現在4巻

新潮社 1997年
人間椅子・押絵と旅する男
朗読・佐野史郎(140分)
 それに比べると、佐野史郎はまだまだ若いというか、役者魂満開というか、過剰に芝居しています。最初はちょっと邪魔っけかなと思いましたが、聴いている内に気にならなくなったので良しとしましょう。
 さて、アイビック版では女性、新潮版では男性が朗読しているのですが、どちらが正しいでしょう?
もちろん両方が正しいのです。原作を知っている人ならわかりますよね。
D坂の殺人事件
朗読・寺田 農(90分)
 映画版「D坂」に出ていたからの出演でしょうか。にしても良いです、寺田 農。「のう」ではなくて「みのり」だからね。声が最高に気持ちいいです。アイビック版の声優さん達はちとおじさん声すぎます。寺田の声は実年齢より若く聞こえるので、若かりし明智にぴったりです。
人でなしの恋・芋虫
朗読・白石加代子(120分)
 歪んだ恋の作品が二本。エッチさではメーテルの勝ちでしたが、怖さからいったら断然こっちの勝ち。だって白石加代子って舞台で何年も怪談の一人語りをやってる人だからね。『芋虫』の独楽のシーンなんか、うわあ、てなもんです。もちろん真夜中の車、一人で聴きました。
屋根裏の散歩者
朗読・江本 明(100分)
 あきません。江本 明は発音が明瞭じゃないです。何を言ってるのかわからない、というのじゃないのですが、全部の言葉が耳に引っ掛かります。何度も途中で聴くのをやめようかと思ってしまいました。
 にしても、倒叙作品にとっての探偵って、「ほんと、うっとおしい存在」だと思います。コロンボとかもね。
 という訳で新潮社の方、続編をお願いします。あと横溝正史とかもね。あ、横正は新潮社から原作出てないからダメか。