岩谷選書
 いわやせんしょ(昭和24〜25年)
 ラインナップを見ればわかるとおり、現在でも簡単に読める作品群が並んでいますが、これはこの選集が名作探偵小説の普及版を意図して作られた選集だからです。
 写真を見ればわかるとおり、
装幀はめっちゃ地味。好きで集めようとしたわけじゃないけれど、なんとなく集めてるうちに、(その装幀故)本棚がいい具合に煤けてきたため、10冊を超えた辺りから真面目に集めるようになりました。
 中島河太郎の『探偵小説事典』には「岩谷書店の不況のため、計18冊にとどまった」との記述がありますが、計28冊の間違いです。ちぇ、一瞬コンプリートかと喜んじゃったじゃないですか。
 いつもなら持っている本だけを書き並べるのですが、今回は持ってないのも全部書いておきます。
この色のタイトルは未入手です。数字が抜けているところは発行されませんでした。


ね、地味でしょ。
ホーラ、地味。


1 陰獣
江戸川乱歩
陰獣・「何者」・鬼・蟲
 『陰獣』の大江春泥はどう見ても乱歩その人。では語り手の「私」は誰なのかというと「甲賀三郎」だそうです。あとがきにそうあります。知りませんでした。
 現在発行されている本に旧字を使えとは言わないけれど、乱歩の『虫』だけは『蟲』じゃなきゃ駄目です。
 講談社の乱歩文庫では味わえないあの有名なフレーズは『蟲』という字があればこその表現です。
2折蘆
木々高太郎
 珍しいことに探偵が主人公です。探偵小説なんだから探偵が主人公なのは当たり前じゃないかとお思いでしょうが、読んで貰えばその意味はわかります。
 新聞小説だそうですが、とてもそうは見えません。大抵の場合、新聞連載は読者の興味をつなぎ止めるために、日々の面白さの追及に走り、最終的に収拾がつかなくなることが多いのですが、この作品はバリバリの本格でありながらどこにも破綻がありません。密室はあるし、終わり方も奇麗だし、ううむ、日本の本格の歴史において、昭和12年にこんな名作が書かれていたなんて驚きです。
3烙印
大下宇陀児
火星美人・巡業劇團・緋縮緬事件・風船殺人・烙印
 乱歩や横溝は集めたくて集めています。香山や蘭は高くて集まりません。三橋一夫は集めたいのに見つかりません。そこへいくとこの大下宇陀児は集めてないのに集まってしまいます。つまり「著作が多い」、人気作家だったから「市場に多い」、だから「安い」、ゆえに「集まってしまう」、ということになっています。このリストの大下のページをアップしてからしばらく経ちますが、更新するのがイヤになるぐらい増えています。そろそろちゃんとしたリストをつくらないと、今後どれを買っていいのか、さっぱりわからなくて困っています。
 『火星美人』ていいタイトルですね。乱歩の『火星の運河』みたいに素敵なイメージが広がります。とてもじゃないけど「懸賞つき犯人探し小説」だとは思えません。どんな美人が登場するのかとワクワク読んだら、実はこれはダイヤモンドの名前、うーん、ちょっとガッカリ。
4本陣殺人事件
横溝正史
本陣殺人事件・探偵小説・消すな蝋燭
 『探偵小説』のエピソード。画家と小説家が知り合いの小説家のところに泊まりがけで遊びに行った帰り、小説家が浮かぬ顔をしています。画家がどうしたのかと聞くと「向こうで仕事をしようと思ったのだが出来なかった。帰るのが嫌だ」と答える。「私たちは秋の展覧会の前だけ痩せるが、作家はそれが毎月あるから大変だね」画家が同情して言う。なんの! 漫画家はそれが毎週あるんです!
5若様侍捕物手帳(1)
城昌幸
 「捕物帳」ではなく「捕物手帳」なのは差別化でしょうか?(1)とありますが(2)は出ませんでした
 本格好きの僕としては、科学捜査が入らない時代物は大好きなのですが……いかんせん、それら(の読書)にまで手が回りません。
6魔女物語
渡邊啓助
魔女物語・聖悪魔・偽眼のマドンナ・血蝙蝠・決闘記・ダンタラスの呪ひの血・地獄横丁・愛欲埃及學・悪魔の指・盲目の人魚
 収録作の3分の2は国書刊行会の『聖悪魔』で読めます。このころの作家はみんな「新青年」誌の「連続短編」の苦行をくぐり抜けて来てますが、それらの作品は渡邊に限らず、どれも名作揃いなのが凄いです。
7ソロモンの桃
香山滋
ソロモンの桃・月ぞ悪魔・獸人ゴーラ・獸兒・生きてゐるマンモス・妖眼・色彩と幻想
 『ソロモンの桃』は香山の処女長編です。いかにも香山な秘境小説です。しかし白状すると、僕はここまでの秘境小説は好きじゃありません。『パノラマ島』ぐらいの秘境が丁度いいのですが(笑)。
厨子家の悪霊
山田風太郎
刺青殺人事件
高木彬光
10 蜘蛛を飼ふ男
角田喜久雄
蜘蛛を飼ふ男・Yの悲劇・緑亭の首吊り男
 書き出したときはこの題名、そして初出時には『銃口に笑ふ男』、単行本になるときに『高木家の惨劇』、そしてこの岩谷選書で『蜘蛛を飼ふ男』に戻ったかと思えば、現在では『高木家の惨劇』で通っている、出世魚みたいな(或いはコレクターのためのような)作品。
11 夢を築く人々
佐藤春夫
指紋・「オカアサン」・時計のいたづら・痛ましい發見・女賊扇綺譚・アダム ルックスが遺書・家常茶飯・美しい町
 『指紋』には「私の不幸な友人の一生に就ての怪奇な物語」という副題がついています。で、その友人の名前はR・Nと言います。僕の友人には二階堂黎人さんと法月綸太郎さんの2人のR・Nがいますが、残念ながら二人とも幸せです(笑)。
12 不連続殺人事件
坂口安吾
 タイムテーブルを作ってたら犯人が当たってしまいました。『虚無への供物』で教わった推理法です。この版には挑戦状は載っていません。
13 顎十郎捕物帖(上)
久生十蘭
14 窓は敲かれず
水谷準
R夫人の横顔・ユラの囚人・司馬家崩壊・故郷の波止場で・今宵一夜を・窓は敲かれず・薔薇と蜃氣樓・われは英雄・夏の陽の如く・さらば青春
 ただ読むだけならば、あまり必要とされないこの選書の中で、1冊だけ残すべき作品集を選ぶとすればこれでしょうか?なぜかこの人、有名な割に国書や創元推理文庫などの全集のメンツから漏れます(逆に宮野叢子ぐらい「知る人ぞ知る」立場だったなら発掘してもらえますね)。表題作は女性の一人称小説ですが、探偵小説でこの形式はあんまりないような気がします。
15 深夜の市長
海野十三
深夜の市長・俘囚・振動魔・雷
 いいタイトルです。全くどうでもいい「市長」に「深夜」がつくだけで、どうしてこんなに面白そうに見えるのでしょう。それがセンスというものです。語り手の深夜徘徊から話が始まります。やっぱり探偵小説の始まりはこうでなきゃ。でも途中から、いかにも海野十三なSFになるのがちょっと残念。
16 芋蟲
江戸川乱歩
二銭銅貨・D坂の殺人事件・心理試験・屋根裏の散歩者・人間椅子・芋蟲・押繪と旅する男・地獄風景
 こっちの「蟲」はデカイのが一匹なので、「虫」でも構いません。
 代表作揃いの完全無欠のラインナップ。小学1年生の読書好き小僧に選ばしてもこうなるでしょう。どこからも文句が出ない代わりに、誰からも褒めてもらえません。
17 私刑(リンチ)
大坪砂男
天狗・黒子・三月十三日午前二時・赤痣の女・私刑・密偵の顔・立春大吉・涅槃雪・零人・夢路を巡る
 渡辺啓助と同じく、古書以外ではあまりお目にかかれない作家ですが、やはり渡辺と同じく、国書刊行会の「探偵クラブ」のおかげでこの作品集の収録作をほとんど読むことが出来ます。
 生涯長編を書かなかった凄い人。
 作品の内容を思い出しているのですが、どうにも『天狗』のトリックのイメージが強烈すぎて困ってしまいます(笑)。
18 鯉沼家の悲劇
宮野叢子
20 蝶々殺人事件
横溝正史
 えーと、あとがきが7Pもついています。そんだけかい! だって有名な作品だもの。
23 青斑猫
森下雨村
 この作品は現在春陽文庫で読めます、といいたいところですが、どうやらそれもそろそろ入手難になってきているみたいです。
 僕の持っている本は信じられないぐらいひどい作り(「折り」の位置が悪くて、「ノド」に後ろのページの文章が3行ほどはみ出てるし、そのせいで本来の「タチ」側の文章が数行切られて読めません)なので、いつか美本と買い換えたいのですが、この選集にそこまでしてやることもないですね。
25 能面殺人事件
高木彬光
28 錦繪殺人事件
島田一男
錦繪殺人事件・黒い天文臺・密室の女王・狂人の掟・夢地獄・無花果屋敷
 古書の世界では全く人気のない島田一男です。作品の評価でもちょっと人気のない島田一男です。でもそういう話題になると「いや、『錦絵』だけは面白いよね」と言われる作品です。しかし、その作品だけで充分一冊分の分量があるのに、どうしてこんなに短編をくっつけたのでしょうか? おかげで凄く厚くなってます。でも値段は他と同じで100円。デビュー間もない新人の島田が天下の乱歩や宇陀児などと肩を並べるための戦略なのでしょう。
 あとがきで「本格を書くのは難しい。『狂人の掟』は変格だが、これは大変楽に書けた」と言っていますが、他のジャンルと違って、本格は若さこそ命。そんなことを言ってる新人は駄目でしょう。なこと言ってるから、大変楽に書けるはずの変格でも、名を残せなかったじゃないか。
33 綺堂怪奇小説集
岡本綺堂
35 顎十郎捕物帖(下)
久生十蘭
36 押繪の奇蹟
夢野久作
氷の涯・押繪の奇蹟・あやかしの鼓
 夢野久作の古書はどれも高いのですが、これだけは5千円札があれば買えます。そういう意味では貴重な本ですが、内容はちっとも貴重じゃありません。
1002 八點鐘
ルブラン
1003 水晶の栓
ルブラン
1006 ルルージュ事件
ガボリオ