学年誌付録
 中学の頃「中1コース」や「中2時代」等という学年誌を時々買ってもらったりしてました。本来そういう本は定期購読するべき本であって、時々買ったりする物ではありません。でも、我が家は裕福ではなかったので、仕方なく「時々」でした。当然のことながら、連載マンガや読み物は話が分かりません。そんな時に威力を発揮したのが、この手の別冊付録でした。僕が買ってた頃は、このような探偵小説はあんまりなかった気がします。ちょっぴり切ない青春小説が多かったようでしたが、なにせ時々しか買ってなかったので(ひつこい)、はっきりは分かりません。今僕が一番集めたい分野の一つです。


 
左から
 『たるの中の少女』
 『夜歩く』
 『赤い館の秘密』
 『黒衣の少女』


『たるの中の少女』(樽)
原作/クロフツ 文/及川寧厚 
小学館 中学生の友一年生付録 S35年6月号
 なぜか舞台は日本(笑)。犯行時間には料理屋にいたと主張する容疑者。それを認める女中の証言。だがそれは、女中の単なる記憶違いだったという驚異のアリバイトリック。そして表紙には原作者の名前すら無し。天下の名作をよくぞここまで!という迷作。
『黒衣の少女』
原作/C・ウールリッチ 文/内田 庶
学研 中一コース付録 S35年11月号
 ジュニア物ではこの作品は良く取り上げられています。罪の無い純粋パズラー物と違って、こういう後味の悪い作品が何故なんでしょう。解説で「(良い探偵小説とは)人生の真実がなんらかの形で描かれているものです」とあります。そのとおりです。
『なぞの紙片』(水晶の栓)
原作/ルブラン 文/内田 庶
学研 中一コース付録 S36年新年号
 今回偶然に『水晶の栓』が二種類ありましたが、ルパン(のジュニア物)の代表作はこれなのでしょうか(ルパン物は数冊しか読んでいないので詳しくないのです)。この話のルパンは敵に出し抜かれっぱなしで、格好悪いです。最悪なのは朝起きたら自分が寝ていた部屋で盗難されていたってとこ。これは、天下の大泥棒としては情けなさ過ぎでは。そのせいなのかどうなのか、この後出てくるもう一冊の『水晶の栓』では、そこはカットされています。
『三人の探偵』(チムニーズ荘の秘密)
原作/アガサ・クリスティ 文/高橋 豊
学研 中一コース付録 S36年2月号
 複雑な人物関係を、さすがにこのページ数で処理するのには無理がありました。犯人はどこで登場したかさえ分からないセリフもなき人物。十戒も二十則もあるもんか。これを読んだ中学生がクリスティを嫌いになりませんように。
『五つの恐怖』(クレイ大佐のサラダ)
原作/チェスタートン 文/小西茂木
学研 中一コース付録 S36年3月号
 こちらは舞台をイギリスからアメリカに変更してあります。だけど、その意図がどこにあるのかちっとも分かりません。さすがにこのトリックは現代ではちょっと通用しないし。
『夜歩く』
原作/ディクスン・カー 文/内田 庶
学研 中二コース付録 S36年4月号
 これを読んで密室に目覚めた中学生がいたらいいなと思いました。でも良く考えたら、僕は中2の時にはもう創元推理文庫の海外本格を読んでいましたから、こういう付録を読んでいた中学生って本好きなのかどうなのか分かりませんね。でも創元推理文庫より15年も早く『夜歩く』がこういう形で出ていたのは驚きです。
『鉛筆の秘密』(パリの夜)
原作/ウイリアム・アイリッシュ 文/緑川 良
小学館 中学生の友一年生付録 S36年 8月号
 アイリッシュはやっぱり面白い。作者のせいなのか、他が全部、長編原作を使っているのに比べ、こっちが短編の原作を選んでいるせいなのか。どう考えても『樽』をジュブナイルするよりは、こっちの方法が正しいと思います。挿絵はあの真鍋博! 今と違う作風も貴重。今回の中でもこの本は一番のお気に入り。でも、表紙にマジックの落書きが! これだからジュニア物は苦労します。
『ABC怪事件』(ABC殺人事件)
原作/クリスチー 文/白木 茂
旺文社 中一時代付録 S38年夏休み臨時増刊号
 この原作なら、まあ間違いはないでしょう。と思ったらすごい間違いが、というのは挿絵のポアロ。これがただの男前、しかも髭ないし。
 「夏休み増刊号」なので、もう一本『怪盗ルパン』(水晶の栓)が同時収録されています。
『赤い館の秘密』
原作/ミルン 文/塩谷太郎
旺文社 中一時代付録 S38年9月号
 この原作を読んだのは遥か昔なので、なんとなくこういう話だったということぐらいしか覚えていません。本格ミステリの「とあるルール」に従えば、これほどフェアプレイな作品はないでしょう。挿絵は大人物でも馴染みのある山内秀一。-YAMA-の署名が懐かしいです。
『ユーゴー全集の怪事件』
原作/ピエール・ヴェリー 文/白木 茂
学研 高一コース付録 S38年10月号
 「世界ミステリ作家事典」によると、この作品が邦訳されたのは、1937年の「新青年増刊号」に『絶版殺人事件』として掲載されたのが唯一らしいです。他にも山ほど作品があるだろうに、なぜにこんなマイナーな作品が学年誌の付録に選ばれたんでしょう。プロローグは(ウールリッチみたいに)ゾクゾクするほど面白かったんですが、展開が退屈。一本のストローの包み紙からの推理は『九マイルは遠すぎる』みたいで面白かったんですが、探偵が最初に疑問を持つ場面が、どう考えても翻訳間違い(しかも致命的)としか思えなくて納得いきませんでした。「新青年」見ない限り、確かめられないし。