DS選書
 昭和21年から23年にわたって出版された、文庫サイズの探偵小説選集。戦後で一番早い叢書だった。出版元は自由出版。「DS」とはもちろん「でてくちぶ・すとーりー」の頭文字。
 この選集を集めだして困ったのが、全部で何冊かわからないこと。目録ではいつも同じタイトルを見るので、そんなに多くはないだろうとは思ってましたが、全何冊かわからないのは非常にキモチガワルイものです。で、そんなある日、紀田順一郎さんの『内容見本にみる昭和出版史』(本の雑誌社・92年)を読んでいたら、
「海野『蝿男』、大下『宙に浮く首』、乱歩『悪魔の紋章』など12点を刊行した」
の記述に出くわしました。僕の持っているのは10冊。ようし、あと2冊、ゴールは近い!
 と思っていたら、思わぬ落とし穴がありました。果たしてそれは!?


『蝿男』
海野十三
S21年3月
 どうしてわざわざ「DS」と銘打った叢書の1冊目が「SF」なんでしょう(笑)。いえ、海野ならまだこれでも「探偵小説」の範疇ですが。
 こてこての関西弁の警部補のせいで、悲惨な描写も吉本風でほほ笑ましいです。
『十八時の音楽浴』
海野十三
S21年6月
十八時の音楽浴・第五氷河期・生きている腸・地球を狙う者・宇宙囚第一号・特許多腕方式
 「蝿男」を無理矢理「探偵小説」と呼ぶことはできても、こいつはどう逆さに振ろうと正真正銘の「SF」です。でも「DS」で、しかも「選書な」のです。
 「生きている腸」は好き。同じSFでも、こういうのなら。
  ぐにゃ、ぐにゃ、ぐにゃ。
  ぷるつ、ぷるつ、ぷるつ。
 「ぷるつ」の「つ」がカワイイです。
『夜光蟲』
横溝正史
S21年7月
 良かった。やっと「DS」です。
由利・三津木物なので、あまり面白くありませんが、いかにも横溝な美少年が登場します。しかもこの美少年は肩に人面瘡のような肉瘤を持っています。うーむ、美しい。
『悪魔の紋章』
江戸川乱歩
S21年8月
 小学生のとき、ポプラ社版でこれを読んだとき、友達全員の指紋をチエックしました。もちろん「三重渦巻き」を探すためです(残念ながら、もちろんそんな奴はいませんでした)。
 この本は恐ろしいほどの美本なのですが、本文用紙の裏写りが酷すぎて、読めません。仙花紙本の怖いところです。もちろんこの版で読む必要などはないのですが。
『街の毒草』
大下宇陀児
S21年9月
街の毒草・指・狂気ホテル・地底の楽園
 「狂気ホテル」が最高です。戦前の作品なのに、なんとロボットが出てきます。
そのホテルの従業員はロボットでした。そのロボットが客に乱暴を働きます。容疑者のロボットが4体連れてこられます。だが、彼らは人間には絶対に危害を加えられないようになっているのです。探偵は彼らの胸を開け、中の機械を見ながら考えます。「犯人はどいつだ!?」
 すんごい結末が待っています。ひっくり返ること請け合い、腰砕けること絶対保証の怪作です。チャンスがある人はぜひ読んでください。一緒にへなへなになりましょう。
『白蝋怪』
横溝正史
S21年11月
 これも由利・三津木物です。当たり前ですね、この時代、まだ金田一は登場してませんもの。やはり美少年が登場します。しかも喜国好みのシーンもあります。でも話はどうでもいいです。角川文庫版では「白蝋変化」というタイトルに変わっていますが、「白蝋怪」の方がカッコイイと思います。
『精神盲』
木々高太郎
S22年4月
精神盲・債權・女の復讐・二本の前歯・ポストの中の手紙・法の間隙・迷走
 精神科医の大心池先生や医学博士の志賀博士が事件を解決する「医者物短編集」です。専門分野の違いゆえ、滋賀博士の方が事件事件しています。ところで大心池の読み方ですが、本によって「おころち」だったり「おおころち」だったりしてハッキリしません。今年出た新潮社の『日本ミステリー事典』では「おおころち」になっていますが「おころち」の方がリズムが良いと思うんですけど。
『傀儡師』
水谷 準
S22年6月
数寄屋橋殺人事件・進めムスメら・夏の陽の如く・われは英雄・傀儡師
 「傀儡師」うーむ、いいタイトルじゃないですか。思わず乱歩作品のような内容を想像してしまいます。でも残念、いかにも水谷 準なストーリーでした。「われら英雄」は代表作ですが、ユーモア物だしね……
『血笑婦』
渡辺啓助
S22年9月
吸血花・復讐芸人・塗込められた洋次郎・写真魔・疑似放蕩症・変身術師・血痕二重奏・地獄横丁・血笑婦
 海野や横溝の「DS」は良く見かけますが、これは見ません。おかげで、この「DS」コレクションの中で一番高くつきました。
 カバーが良いです。タイトルも良いです。タイトルロゴの血が良いです。もちろん中身も面白いです。
『幻の女』
横溝正史
S22年9月
 あんまり長くない話で1冊にするため、1P13行という荒技で版組みされています。「角川文庫の銀×夏×か、お前は(笑)」
 第1章のタイトルが思いっきり今では使ってはいけない言葉です。角川文庫版でもそこはイキていますが、絶版になっててよかったですね。お話はやっぱりどうでもいいです。途中で三津木が死にますが、あまりにもあっさりした描写なので、どう見ても死んでないことが分かります。
『街の毒草』
大下宇陀児
S21年10月 2刷
街の毒草・指・狂気ホテル・地底の楽園
 前書きで触れた落とし穴はコイツです。一目瞭然、初版と装丁が違うのです。ショックでした。DSが全12冊と知り、「あと2冊だ」と決意したその週にコイツを見つけてしまったのですから。しかし、初版から一ヶ月後の2刷りで、変えるかよ普通。

 うう、本当なら、あと海野の『地球盗難』と大下の『宙に浮く首』の2冊で揃うはずだったのに……